ALC ビル 塗替え エレクトロレトロレトリック 春画 忍者ブログ
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Title : 春画
 観音堂の脇にある路地に小さな書店が有った筈だが、何時の間にか店舗を畳んでしまっていた。池の畔の柳が立ち並ぶ一角のうらぶれた辺りに似つかわしい、煤けた書店であったのだが、如何せん経営者夫婦も高齢、私が子供の頃から爺さん婆さんをやっているような歳である。勘定する手つきも怪しく、事に依ると此れはぽっくり逝ったのかもしれない。閉ざされた硝子戸から中を伺っていると、何か御用ですか、と声を掛けられた。若い男である。
 イエ、別に私は何も、適当に濁して立ち去ろうとしたが、先方は如何やら私に見覚えがあるようで、若しやうちに良くいらして下さっていた方ですかと言う。私は彼に見覚えなど無いのだが、若しかすると老夫婦の息子、或いは孫ではあるまいか。何かしら腑に落ちた私は、お店は如何されたのですか、と問うてみた。すると男は、アゝ、店ですか、明日から新装開店致しますよ、宜しければ覗いて行って下さいな、と云う。私も断る理由も無いので、そうですか、と答え、導かれる侭に中に入った。其れが間違いだった。商売替えをしていたのである。
 中はと言えば驚く勿れ、未だ春には遠いと言うのに春爛漫の有り様で、あられもない姿の婦女の絵姿が艶かしい視線を投げ掛け、薄紅色の表紙には扇情的な文句が踊っている。春はももいろさくらいろ……観音堂の泉に浮かぶ……あめのうずめの夜の夢……。何処からか口上が聞こえてきて、私は目の遣り場に困り、酷く頭が痛んだ。私の後天的な性格的欠損、恐るべき人間的欠落、二律背反の機能障害、其の様々の色々の不具合が前頭葉に鈍い痛みを埋め込み、私の意識は混濁し、不統一の性本能は私を手酷く裏切るのだった。其れが私には酷く悲しく、俣た、物語とはいえ、蹂躙されて猶お笑みを浮かべる幼子の健気を思うと、其れは所詮は絵姿であるのだが、残酷な世の縮図を垣間見る心地で、人間が文化的に生きるとは如何言うことなのか、考えるだに憤りを覚えるのである。
 然れでも、誰でもが当然に遣っていることじゃあありませんか、と、紙の中の女が笑い、肌蹴た襦袢を直しもせず、私を見据えて言うのである。往来を行き交う彼の人も此の人も、老いも若きも男も女も、誰もが有り余る性本能を消化するために、夜毎夜毎……其の為に私どもが居ますのに、人間本来の醜さを覆い隠し、自分一人だけが高潔なふりをして、夜毎夜毎……駄目でしょう、其れは道理が通らぬでしょう。女の柔い白さに触れたいと、夜毎夜毎……誰よりも念じている癖に……。
 日本橋から越してきた店は、恐らく大層繁盛する。人間精神に蟠る底なし沼の如き性本能が、其れを保証するだろう。見覚えの有る書棚には、嘗ては沢山の文庫が並んでいて、私は読めぬ活字を繰る度、大人になった心地がしたものだ。今更に初心な振りをする訳ではないが、私の心は痛んでいる。降り止まぬ紙吹雪の如き春の押し売りに、私の何が分かると言うのか。春はももいろさくらいろ……観音堂の泉に浮かぶ……あめのうずめの夜の夢……。紙の女の歌声を背に、私は無言で店を後にした。
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