ALC ビル 塗替え エレクトロレトロレトリック 夜船 忍者ブログ
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Title : 夜船
 明かりの灯らない平屋のバラックが何処迄も続く闇の濃淡の、草海原にも似た街並みの成れの果てを、たたんととん、たたんととん、二両編成の電気鉄道は往く。心寂しい律動が鼓動に同調し、寂しさに胸が絞り上げられるようである。乗客は男も女も一様に俯き、まるで彼の世にでも行くかのように湿っぽい。其の中で唯だ一人、逆さに野球帽を被った少年だけが、鏡のような窓に顔を近づけては、口を窄めたり、頬と目尻を引いてみたり、百面相を楽しみながら、一人けらけらと笑っている。
 何もない夜だった。何ひとつない、暗い昼間のような夜だった。其の夜を往く私もまた、何ひとつない夜のようだ。目的地も無く、只だ漫然と、次の乗り継ぎ駅を探すだけの旅だが、其の旅ももう終りである。
 電気鉄道が辿り着いた先は、夜の川縁に生い茂る葦原の中だった。
 車内放送がお馴染みの口上を読み上げ、私は下車の準備をする。網棚の新聞と、丸くなった猫が気懸りで、猫を持って降りると果たして窃盗罪に成るのか否か、其んな埒も無いことに考えを巡らせていると、程なく列車は車輪の回転を止めた。
 人波に混ざって列を成し、皆と足並みを揃えて往くことで、初めての土地でも改札を間違わぬのは、生きる知恵である。空っぽの改札に設えられた箱に切符を放り込み、皆の向かう方へと同じに足を向けた。
 駅の外には茶屋が在った。茶屋と言っても小汚い破屋で、橋の下の家の如き簡素な造作の掘立小屋であるが、其処には賑わいがあった。笑うことを忘れて果たして何れ位に成るだろう。もう随分長いこと笑っていない気がする。汚れた身形と言えども人々は楽しそうで、お囃子に乗せて下手な唄が聞こえる。
 桟橋に繋がれた船には、女達が居た。赤い提灯に墨で、わたしふね、と書かれている。渡し舟なら都合が善かろう。私は何の気なしに其方へと向かおうとしたが、子供に袖を引かれて呼び止められた。先程の、野球帽を逆さに被った少年である。
 坊や、如何したの、お母さんは一緒ではないの。其う問うてみると、少年は黙って渡し舟を指差した。調度其の舟は岸を離れ、暗い夜闇へと消えていくところであった。慌てて舟を呼び戻そうと私は駆け出したのだが、後ろから、やめておきなよ、もう聞こえないよ、と言われた。見れば老婆が何時の間にか居て、少年の肩を抱いている。
 ありゃあ中州の夜鷹さ。もう帰らない。帰らないのさ。老婆は其う言って笑い、夜鷹ってなあに、と少年も笑った。此の子の母親はね。此の子の為に捨てるのさ。此の子が此の先、生きるだけの、長い命を捨てるのさ。僅かな銭金と引き換えにね。然うして、然うして、骨と皮に成って、此んな婆に成っちまうのさ。
 返す言葉も見つからぬ私が懸命に何か言おうとしている内に、老婆は少年の手を曳いて、其の侭何処かへと消えてしまった。
 色町では、夜も、夢も、浅いと言う。生温かな風に乗せて、お囃子が葦の葉を揺らしている。
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