ALC ビル 塗替え エレクトロレトロレトリック 堀川心中 忍者ブログ
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Title : 堀川心中
 花火問屋の角を折れるとご承知のように三条商店街であるのだが、如何したことか今日に限っては日暮れ間近の賑わい時だというのに人っ子一人、猫の子一匹居らぬ。青果が冴えない雁首を並べ、鮮魚もぽかんと口を開けている。揚げ物は湿り、惣菜は乾き、大根は漬かり、豆腐が泳ぎ、兎にも角にも、人目のない処では彼れも此れもが殊にだらしない。人間様が目を光らせているぞと四方を睨みつゝ無人の商店街を往けば、背後から忙しない足音がする。見れば近所の寺の小坊主が私を追い抜いていくところである。擦れ違い様にモシ、君、と声を掛けると、小坊主はちらと此方を見、私ですか、と弾む息で答えた。君です。何か有ったのですか。問うと、小坊主は速度を落とし、知らないのですか、心中ですよ心中、と言う。此処で云う心中とは心の有り様のことではなく、相対死にのことである。
 心中ですか、と言うと、エゝ、私は掃き掃除が済むまで出ては成らぬと住職様にきつく言われまして、住職様はもう往かれましたよ。ハア、念仏の一つも上げにですか。滅相もない、此れですよ此れ。小坊主が眉の高さで掌を水平に翳し、詰りが野次馬であろう。何とも下世話な住職である。もう良いですか、私は急ぐので。小坊主が其う言うので諾と告げると、大層嬉しそうな顔をして駆けて行ってしまった。アゝ、然う然う、商店の留守を物色して回るのは止してくださいね、等と捨て台詞を残すところが小憎らしい。私は留守中の売り物が怠けるのを親切にも戒めて回っていたのだと弁解したかったが、小坊主はもう豆粒である。李下に冠を正さずとは良く云ったもので、明日から私は三条界隈で盗人として名が知れるかもしれない。難儀なことだ。
 其れは然うとして、サテ心中である。堀川に着いてみれば、何やら黒山の人集りで、小坊主の話では随分前に広く知れ渡った話のようだったのに、未だに生き死には決着せぬらしい。堀川は石造りの疎水めいた造りで立ち並ぶ柳も相俟って景観は美しく、心中もさぞ様に成るであろう。見知った剃り跡も青い禿頭を目に留めれば、見えぬのかして必死に背伸びをしている。君、君、と声を掛けると、アゝ、先刻の空き巣狙いの人、などと物騒を言うので、噛んで含めるように売り物の怠惰を説き、結局のところ人間的信用だけでは解決に至れず、今斯うして肩車をしている次第である。
 坊主、良く見えるかね。エゝ、良うく見えます。然れで何が見えるかね。ハア、女が縊れて。なんと、女が。エゝ、可哀想に。で、何が如何成っているんです。エゝト、アノですね。男が泣きながら赤い紐で女を縊り殺しまして。其れを木から吊るそうとして奮闘して居るのですが、然れでもですね、何しろ柳でしょう。枝がしなって上がらぬのですよ。女は丁度梅干のような色をしていますよ。ホウ、梅干。エゝ、梅干です。男は大汗で縄を掛けては曳き、縄を掛けては曳き、泣いたり笑ったりですよ。人性とは真に哀れなもので……。言葉とは裏腹に小坊主の声色は嬉々として、アゝ、頑張れ、もう少し、もう少し、アゝア。あんまり上下に揺するから。なむあみだ、なむあみだ。心のこもらぬ経に、成る程、此れくらいの按配でなければ、日夜人の生き死にに関わる仏門は務まらぬのかと人を弔うということの職人性を見る思いで、川べりの心中は未だ成らず、しなる柳の枝も堪えかねて折れた。
 彼の世で吃と添い遂げる筈が死ぬに死なれず格好も付かぬとは、人の生き死にも笑い話で、何とも滑稽な見世物である。
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