ALC ビル 塗替え エレクトロレトロレトリック おおはきり 忍者ブログ
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Title : おおはきり
 表が騒がしいので草履を突掛けて見に出てみると、垣根の脇で八の字を書くものが在る。
 善く善く目を凝らしてみれば、其れは真白な二羽の蜂鳥であった。恐らく番いであろう。大人の握り拳くらいの体躯が俊敏に羽根を震わせ、目にも留まらぬ速さで斜交いに舞うのである。其れは何とも摩訶不思議な光景で、生まれて此の方見た事の無い、動物界の神秘であった。私は暫し其れに見惚れ、阿呆のように口を開けていた。
 交尾ですな、日本では珍しい鳥です。声がして振り向くと、其処には恰幅の良い禿頭の紳士が立っていた。傘の柄のように曲がった杖を持っている辺りが紳士らしく格好が良い。身形も善く、肌理の細やかな銀糸で編まれた背広と、ぴかぴかに磨き上げられた革靴は私を気後れさせる程である。
 紳士が言う。蜂鳥の交尾を見たことが今迄にお有りですか。無論有る訳も無く、私が、否、まるで剣戟の如き火花を散らす有様ですねと答えると、紳士は、ほう成程、剣戟、貴方には其う見えますか、と笑った。では彼には如何見えるというのだろう。内心の疑念に心中で首を捻っていると、不意に門柱の鉢が倒れた。さつきの鉢である。アッ、いかん、私が受けに走るも時は遅く、鉢は勢い良く溝に頭を突っ込み、張り出した枝の大半は無残にも折れて終った。茫然自失の体で溝を覗き込むばかりの私に、不幸せは容赦が無い。背中と首に鋭い痛みが走ったのである。
 嗚呼っ、此れは。紳士が大声を出した。何事かと目を遣ると、紳士は此方を凝と見て、杖など疾うに捨て、あわわ、あわわと写影機を掌で躍らせている。何です、何の騒ぎです。問うと、紳士は口から泡を飛ばして言った。
 お、お、おおはきりですよ、お、おおはきり。おおはきり、何です其れは、と私が問うと、復た背中に鋭い痛みが走った。肩越しに振り向くと、何と其処には驚く勿れ、全身青色の鶏が私の一張羅を鉤裂きにし、巨大な羽根を悠然と羽叩かせ乍ら、背中に爪を食い込ませているのである。此の驚きは蜂鳥の比ではなかった。
 何です此れは。だからおおはきりですよ。申し遅れましたが私は斯う云う者です。差し出された名刺を見ると、鳥類博士なにがしと書かれている。先刻よりは滑舌が正常で、事に依るとおおはきりではなく、あおはきり、と言ったかもしれない。人間の聴覚器も発声器も中々に精度が怪しく、意思の正確な伝達は永遠の命題である。其れは兎も角、あおはきりならば、青羽切と書くのだろうか。成る程、其の方が腑に落ちるのだが、鳥類博士はと見れば、ぶるぶると震える手で写影機を構え、動かないで下さい、と大声を張り上げて喧しい。背中の青い鶏が人知の及ばぬ力で暴れるのは私の責任ではない。
 途方に暮れていると、何とも更に驚くべきことに、門柱の上のさつきの鉢植えの飾られていた場所、其処に二羽目のおおはきりが座って居るではないか。其の様が何ともふてぶてしく、酷く胸が悪い心地がする。
 視界の端では白い蜂鳥が未だに八の字を描いているし、鳥類博士は落ち着かない。鳥など心底から嫌いであると思えた。私の知らぬ遠い南方の地の、何処か密林の奥深くで、心行くまで遣って頂きたい。心から其う願うのだが、背中に食い込んだ爪は深く、背後では復た何やら鉢が壊れているのであった。
 夕餉には揚げ鳥を食した。
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